Chapter 1: Cambodia Trip









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2016年6月末、先月放送されたNHK WORLD「RISING」のドキュメンタリー撮影も兼ねて、兼ねてから赴きたかったカンボジアへ渡航しました。

事の発端は2年程前に遡ります。私達が普段着ている衣類は不要となると廃棄するか、若しくはリサイクルショップへ持ち込むか、主にこの二択だと思いますが、いずれであれ不要となった衣類を業界用語で「故繊維」と呼びます。日本ではこの故繊維がどのような取り扱いが行われているか、この実態を故繊維業界の企業と繋がり、当時からリサーチしていました。
※詳細はHappenings REPORT 「衣服の末路」をご覧下さい。
https://www.modeco-brand.com/happenings/cloth-fate-of-clothes/




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大量の不要となった衣類、「故繊維」達が眠る倉庫。




大量消費、廃棄社会となった事で故繊維そのものの量が増大した影響で私達個人の衣類の廃棄量は増加傾向になります。その故繊維は国内で二次利用がなされない場合、国外へ輸出されています。その輸出先の代表格がカンボジアです。
今回その故繊維が現地でどのような取り扱いを成されているのか、この実態を調査しにいく事と同じ故繊維の中でも特殊な故繊維「各国の軍服の古着」がどうやらカンボジアへ集っている情報をキャッチし、これらの実態を確認し、MODECOとして何が出来るのか確認する事が目的でした。

到着して驚いた事は予想以上に活気にあふれ近代化に向けての発展が感じられる街や人達でした。

ご存知の方も多いと思いますが、近代史においてカンボジアは凄惨な歴史の背景があります。クメール文化など国としての歴史は非常に深い歴史を持ちますが、主にポルポト政権下における当時の施策により、国そのものがリセットされてしまった事で文化も人もゼロからやり直している状態にあり、勝手ながら少しネガティブな空気を予想していました。

ところがそんな思いとは裏腹に人も街も一生懸命。一方で垣間見える緩やかな家族との時間。そんな生活風景は個人的にはとても心地良いものでした。




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ドキュメンタリー制作チームとメコン川で。




到着早々、早速故繊維が集うタイとカンボジアの国境地点のポイペトカンボジア)〜アランヤプラテート(タイ)へ向かいました。実際はプノンペンに集まっているのですが、これらが一般向けに売買されている代表的なエリアがこのポイペト〜アランヤプラテートになります。

陸路でポイペトからアランヤプラテートへと国境を越え、実際の市場へ向かいます。




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国境付近。




その途中、各国から集まった故繊維を荷馬車で引く人達を見受けられました。1袋あたり100kgを優に超える故繊維が詰まった袋を何袋も積み上げリヤカーで運び込む姿はインフラがまだ行き届いていないここならではの光景と言えます。また陸路を歩く中でストリートチルドレンがお金をねだる光景もここならではと言えるでしょう。経済が今まさに発展途上しているカンボジアの様な国では、こうした光景も珍しくなくないのですが、経済が発展する事で得られる恩恵も多い一方で、豊かになる事で失われていく事もあり、カンボジアではその失われた何かが残っている事を感じる事も出来ます。どちらが良いのか、ベタですが考えさせられるものがあります。




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大量の故繊維が運び込まれる。




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リヤカーで大量の故繊維を運ぶ。




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故繊維を積み上げる。




アランヤプラテートの市場は巨大なアーケードとなっており、あらゆる古着が並んでいました。カンボジアから流れていきた故繊維。それらが詰まった袋から衣服を取り出し、家族で仕分け売る。これを生業としている人々が確かに存在しています。日々私達が着終えた服は確実に彼らの生活の一部となって循環していました。




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大量の故繊維を仕分けする。




しかし軍服だけは違います。カンボジアでは軍服古着のファッション的着用が暗に禁止されているのです。特に法や条例があるわけではないようですが、実際に着用した人の逮捕事例もあるようで軍服に対してとても敏感になっているようでした。




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ファッションとして流通されない軍服達。




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タイへ流通される軍服。




これが歴史的な背景から来る感情論なのか否かは現地の人間でも分からないらしいのですが少なくともカンボジアにとっては軍服古着そのものが不要=廃材であり、タイへ流通せざるを得ない事が理解出来ました。

カンボジアにおいて古着は1つの貴重な産業資源でそれらは確かに生業の1つです。しかしその中でも軍服古着は不要の存在でしかなく、これらの廃材を用いてカンボジアからカンボジアの人達と共に放つ新たなデザインは何か出来ないだろうか。願わくば軍服を拒絶するカンボジアだからこそ発信すべき平和なデザイン・・そんなモノがここカンボジアで描けたらと感じた日でした。Chapter 2に続く。